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福岡家庭裁判所 平成4年(少ロ)1号 決定 1992年10月21日

本人 G・Y(昭和50.12.6生)

主文

本件については、補償しない。

理由

1  当裁判所は、平成4年10月1日、本人に対する平成4年少第2150号窃盗事件について、その事実が認められないことを理由として、本人を保護処分に付さない旨の決定をした。同事件の記録によれば、本人は上記事件の送致事実に基づき逮捕されたうえ、当裁判所において観護措置決定を受け少年鑑別所に収容されたことが認められる。

2  そこで検討すると、上記事件の記録(審判調書を含む。)によれば、本人の友人のA(18歳)が同事件送致事実の罪を犯したものと認められて本人が犯したものではないのに、本人は、保護観察中である同人をかばうために、自ら進んで同人の身代わりとなって警察官に自己の犯行である旨虚偽の自白をし、その後の捜査段階においても、当裁判所における観護措置手続においても、家庭裁判所調査官の面接調査においても、送致事実のとおり自己が罪を犯したものであると虚偽の事実を述べ、そうして警察においては、その虚偽の事実のとおりの内容の、本人の司法警察員に対する供述調書2通に署名指印し、検察官作成の弁解録取書にも、裁判官の観護措置決定手続陳述録取調書にも、送致事実のとおり間違いない旨述べて署名指印し、その後の平成4年8月25日の審判期日(同日観護措置は終了した。)の直前になってはじめて送致事実を否認したことが認められる。すなわち、本人は捜査及び家庭裁判所の調査を誤らせる目的で虚偽の自白をしたことにより身体の拘束を受けるに至ったと認められる。

3  よって、少年の保護事件に係る補償に関する法律3条1号に該当するので同条本文により本人に対し補償の全部をしないこととし、同法5条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 久保園忍)

(参考) 保護事件決定(福岡家 平4(少)2150号 窃盗保護事件 平4.10.1決定)

主文

この事件について少年を保護処分に付さない。(非行なし)

理由

1 送致事実

本件送致事実は「少年は、平成4年7月28日午前2時30分ころ、福岡市東区○○×丁目×番○○団地××棟南側駐車場において、駐車中のA所有の普通乗用自動車1台(時価50万円相当)を窃取したものである。」というのである。

2 少年の供述の経過

(1) 少年は、捜査段階及び家庭裁判所における審判直前に至るまで、本件送致事実を認めていたものである。すなわち、警察においては、司法警察員に対する平成4年7月30日付2通の供述調書において自分が本件窃盗をしたと述べ、検察庁においても検察官作成の同月31日付弁解録取書において、事実は今読まれたとおり間違いない旨述べ、同日当庁においてなされた観護措置手続においても、少年は裁判官に対し、事実は読み聞かされたとおり間違いない旨述べ、家庭裁判所調査官の面接調査の際も送致事実を認めた(調査官は3回少年に面接した。)。

(2) 同年8月20日ころ、付添人に対し、少年は、自分は本件の非行をしていない、友人のAがこの窃盗をしたのを、自分が、保護観察中であるAをかばって、自らすすんで身代わりになって犯人になりすまし、警察でも、検察庁でも、家庭裁判所でも自分が本件の非行をしたと嘘のことを言い通してきた旨述べた。

3 当裁判所の判断

(1) 証人A(18歳、無職、福岡市東区○○×丁目×番×-××に居住、以下単にAという。)の審判廷における供述(平成4年10月1日証言)によれば、次の事実が認められる。

ア Aは、単独で、本件の日時に東区○○の○○団地の駐車場で、同人所有の鋏を使用し、本件の自動車のドアーをこじ開けて中に入り込み、同人が運転し去ってこれを窃取した。

イ Aは、本件自動車を運転して、少年が逮捕される前の日の夕方、少年宅に行き、少年を自動車に乗せて○○、○○方面をドライブし、翌日午前3時ころ自動車の中で寝た。

ウ Aは、少年を乗せたまま、同日朝早く(午前6時過ぎころ)東区○○のAの友人のアパートに行き、後方にパトカーが来ていることを知って、少年とともにその友人方に入り、Aが中から玄関の鍵をかけた。そのアパートには7人くらいの若い人たちが泊まっていたが、そのほとんどの人が目を覚ましていなかった。

エ その友人方において、少年は、Aが保護観察中なので、少年が窃取したことにしてやる、と言った。Aが「ほんとうにそれでいいのか」と少年に聞いたところ、少年は「うん」と答えた。少年が「どこでとったか」と聞いたので、Aは本件自動車を窃取した場所は○○の○○団地の駐車場であると教えた。

オ その友人方アパートに5分くらいいたら、警察官がそのアパートに来たのでアパートの玄関ドアーを開け、少年は1人で警察官について行き、Aは友人でそのアパートに泊まっていたBとともに出て警察官について行った。Aは、Bに、Aがはじめから上記アパートにいたことにしてくれとたのんだ。午後6時ころアパートに来たと事実のとおりに言うと車を盗んだと疑われるとAは思ったので、そのようにBに頼んだ。しかし、少年がAの身代わりになったことは、Aは誰にも話さなかった。

カ Aは、警察署における警察官の事情聴取に対し、「自分は前日からアパートに寝ていたから何も知らない」と嘘の答えをした。

キ Aは、自分の身代わりになった少年が鑑別所に入ることになるとは思っていなかったところ、現実に少年が鑑別所に入ったし、自分の代わりに鑑別所へ入っていることは悪いと思い、真実を正直に話そうと思って、証人呼び出しに応じありのままをそのとおりに証言したものである。

ク Aは、真実は自分が本件の窃盗をしたことに間違いないから、この窃盗であらためて警察から取り調べを受け、処分されることを覚悟している。

(2) 少年の保護者母G.S子の審判廷における陳述によれば、少年は、本件非行の時間帯である平成4年7月27日夜から28日の朝までずっと母G.S子とともに同じ部屋にいたことが認められる。

(3) 少年は、審判廷において、Aが同年7月29日自動車に乗って少年宅まで来たのでその自動車に乗せてもらって出掛けたこと、同日Aがその自動車を盗んだことを少年に話したこと、翌30日朝早く自動車から降りてAと話しているときパトカーと警察官の姿を見たので、A、少年の順で友人のアパートに逃げ込み、鍵をかけ寝たふりをしていると警察官がチャイムを鳴らしたので3分ぐらいしてドアーを開けたこと、ドアーを開けるまでの間少年がAに自動車を「どこで盗んだか」と聞いたこと、Aは少年に対し「○○の電話ボックスの右側の団地の一番はし(端)」とだけ言ったこと、保護観察中であるAの本件犯罪が発覚すれば同人は大きな処分を受けることになると思い、Aから全然頼まれなかったのに、自分から進んで身代わりとなって警察官に自分がその自動車を盗んだと嘘を言ったこと、同日窃盗現場の確認のため警察官に連れられて行ったとき、少年は窃盗のなされた場所を知らなかったので、警察官に正しい場所を知らされたこと、警察官が少年に対し「Aをかばっていないか」と言ったとき少年は「違います」と嘘の答えをして身代わりを押し通したこと、以上のことを陳述した。

4 以上によると、本件の窃盗は、Aがこれを犯した疑いが濃厚であり、本件送致事実については証明があったとはいえない。

(なお、当庁の資料によれば、Aは、

本籍   福岡市東区○○×丁目××の××

住居   同市同区○○×丁目×番×-××号

生年月日 昭和49年9月27日

であり、窃盗等により当庁で4回の調査・決定を受け、平成4年2月19日窃盗保護事件につき保護観察に付され、現在保護観察中である。)

5 したがって、本件については、少年に非行がないことになるから、少年法23条2項により少年を保護処分に付さないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 久保園忍)

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